第116回 『孤高の人』ふるさと但馬をゆく

〜厳冬の山にひとり挑み、山に消えたアルピニスト〜 なんでも詰め込みの引き出しを整理していると、古い写真の束がでてきた。新聞社にはいって間もない頃の京都・北山の写真で一緒に写っていたのが、3年先輩の Mさん。Mさんは、当時、下宿の帰り道が同じ…

第115回 暗殺後に幕府、息子、家臣から排斥された井伊直弼

〜藩論二転三転して徳川に引導の彦根藩の幕末〜 彦根へは年に何回かはでかける。彦根城と周辺散策、さらには湖東三山めぐりの帰りに立ち寄ることもある。9月は城の庭、玄宮園で虫の声を聞く風流な催しが開 かれ、虫の声を聞きながら、茶人直弼をしのんでい…

第114回 世界で唯一の淡水湖の集落、沖島をゆく

〜琵琶湖最大の島で人と猫が共生〜 夏の終わりに琵琶湖で久しぶりに泳いだ。10年前、次男とダブルスカルで瀬田川から近江大橋まで漕いだことがある。風が強く、艇は沈(ちん)して真冬の琵琶 湖を泳ぐ経験をした。それ以来の水泳である。琵琶湖は周囲23…

第113回 戦後70年を旅する

〜京都学派「近代の超克」から現代への思想の流れ〜 1995年(平成7)、 西域・中国取材の連載を終え、一息ついた私に戦後50年の企画担当デスクが回ってきた。日本はどこでどう間違ってあの戦争に突入したのか、連載企画を始め るにあたり、資料読みか…

第112回 日本三大車窓「姨捨」の風景

〜されど青いリンゴの篠ノ井線をゆく〜 「旅鉄」(たびてつ)に目的地はない。あくまで車窓、駅、レール、車内が旅の目的になる。駅弁も入れる必要がある。さらに途中下車しての散策も旅鉄の楽しみだ。 大糸線のフォッサマグナの旅は、地球の歴史をたどる冒…

第111回 北アルプスの麓で刻まれた愛の相克と女像

〜大糸線でフォッサアマグナをゆく〜 大糸線の車中の人になった。大糸線は松本と新潟の糸魚川を結ぶローカル線であるが、アルピミニストにとっては夏冬、通いなれた山の銀座線。6月の信州は緑 が光り輝き、まぶしい。松本駅を発車の車窓の進行左にはまず端…

第110回 池波正太郎を歩く

〜京都に江戸を見た鬼平こと長谷川平蔵〜 TVで鬼平シリ−ズがしぶとく放映されている。CSでは古い作品、BSは比較的新しい。毎度おなじみの筋立てであるが、ひきこまれていく。江戸が舞台。と ころが新しい作品は京都、近江八幡ロケになっている。東京で…

第109回 荘厳に涙の播磨・浄土寺阿弥陀三尊像

〜仏像背後から照らす落日の余光〜 姫路の帰りに、立寄りたい寺があった。JR加古川駅で加古川線に乗り換え、粟生へ向かう。加古川線は福知山と播磨を結ぶローカル線で加古川沿いを北へのぼっていく。粟生は田園地帯の中にあり、北条電鉄と神戸電鉄が乗り入…

第108回 50年ぶりの姫路・白鷺城

〜蒼空に羽ばたく世界遺産の威容再び〜 駅から北に真っ直ぐな道が城へ続いている。天守を見上げながら大手門に近づく。しかし、築城時はもとより、江戸時代は城下から大手門まではまっすぐな道ではなかった。まがりくねっている。城下特有の道だった。 先の…

第107回 サクラ前線に乗って関西本線をゆく

〜大阪―奈良―名古屋を結ぶ歴史の鉄路〜 * 関西以外のひとにはほとんどなじみがないのが大阪―亀山―名古屋を結ぶ関西本線である。鉄道フアンが沿線の歴史と風景に魅せられ、通い詰めるローカル線だ。日本の東西をつなぐJR東海道線、名神高速は京都を通るため…

第106回  小京都津和野をゆく

〜 文豪鴎外の故郷と城下に秘めたキリシタン殉教〜 3月の声を聞くと、(乗り鉄)の虫がさわぐ。青春18キップが発売されるからだ。JRは春と夏、12月の3回しか発売しない。学生の休みに合わせた措置そうだが、いまどきの学生が青春18をどこまで利用して…

第106回  小京都津和野をゆく

〜 文豪鴎外の故郷と城下に秘めたキリシタン殉教〜 3月の声を聞くと、(乗り鉄)の虫がさわぐ。青春18キップが発売されるからだ。JRは春と夏、12月の3回しか発売しない。学生の休みに合わせた措置そうだが、いまどきの学生が青春18をどこまで利用して…

第105回 湖国に春の訪れ

〜香り満喫,長浜まち歩きと日本一の梅盆展〜 頃は立春、外は雪が舞う。私の住む琵琶湖湖畔では春は盆梅で始まる。梅林の花は3月 の声を聞くまで、香りを蕾の中にしまい込んでいるが、すでに満開なのが長浜梅盆展である。町はどさっと雪をかぶっている。長浜…

第104回 人波かきわけ京都初弘法

京の新春のにぎわいは21日の東寺・初弘法。弘法大師の月命日にちなみ、境内から門前までありとあらゆる露店が軒をならべる。この露店、いずれもプロ、店を 持ち、弘法さんに出張してくる。人気は骨董品。プロや目利きは朝早くから掘り出し物を求め、素人は…

第103回 SLで行く雪の湖北 

〜北陸本線・米原から琵琶湖周遊の旅〜 夏が過ぎ、冬になると、暑い夏が懐かしくなるのと同じで、SLの旅が恋しくなる。SLの夏はトンネルで窓も開けられず、むせた。ところがいまは、あの煙と音、ポーという汽笛が旅こころをくすぐる。汽笛は旅の始まりだ…

第103回 SLで行く雪の湖北 〜北陸本線・米原から琵琶湖周遊の旅〜

夏が過ぎ、冬になると、暑い夏が懐かしくなるのと同じで、SLの旅が恋しくなる。SLの夏はトンネルで窓も開けられず、むせた。ところがいまは、あの煙と音、ポーという汽笛が旅こころをくすぐる。汽笛は旅の始まりだ。 岐阜と福井県境の湖北は北陸と畿内・…

第102回   新東京・江東をゆく

〜ノスタルジー共有なるか高層マンションと運河〜 東京は日に日に進化している。大阪との違いはここだ。京都はともかく、全国都市で50年前と現在を比べて著しい変わりようは東京と福岡だろう。なかでも、湾岸線に目を見張らざるをえない。隅田川、荒川沿岸…

第101回 大和一の紅葉の名所・多武峰、吉野

〜「大化の改新」の舞台をゆく〜 月末の急激な冷え込みで紅葉が鮮やかになった。出かけるなら京都を避けて、近江は湖東三山、奈良は多武峰(とうのみね)がお勧めである。多武峰は明日香村の北東に位置し、近鉄桜井駅からバス25分で終点、談山神社停留所へ…

第100回 「青春紀行」 〜ふたつの詩の輝き〜

青春とは人生のある期間ではなく心の持ちかたをいう (サムエル・ウルマン) 草原の輝き、花の栄光 再びそれはかえらずともなげくなかれ (ワーズ・ワース) * 1945年(昭和20)8月30日、アメリカ空軍機が厚木飛行場に着陸した。コ−ンパイプを手に…

第99回 窓に額をつけて見つめた「青春夜行」

− − 〜隠れ東海道線・大垣―美濃赤坂をゆく〜 次回100回記念の旅は、「青春紀行」。過日、新聞のコラムで高校生の部活の連載企画の題が「青春」であることに、筆者は若者には古臭いという感想を寄せていた。最 初、良く意味が飲み込めなかったが、別のコラ…

第98回 史上最大の家康の「いちゃもん」から400年

〜大阪冬・夏の陣を生んだ方向寺の梵鐘銘文〜 京都東山の京都国立博物館の大和大路沿いの巨石組みは、いわば歴史遺産といえる。三十三間堂は七条通隔てた南にある。この石組みを北に歩くと、方向寺であ る。都では大仏さんと呼ばれていた。いまはその面影は…

第97回 京の隠れ里、花脊で火の饗宴「松上げ」

〜夜空に描くタイマツの環〜 大文字送り火の前日、北山の里で繰り広げられる火祭りは、観光客に見逃されている。大文字の陰で話題になることも少ないが、一見の価値はある。山里の夜空に描かれる火の環は、大文字にない郷愁を誘う日本の夏だ。 里を離れた若…

第96回  幕末揺るがす祇園祭の惨劇  

〜近江商人の見た池田屋事件〜 近江商人小杉屋の番頭、元蔵は商いのため、京へ出てきていた。小杉屋は主人と元蔵のふたりが切り回す新興の店である。まだ近江五個庄に店を構え、出店は なく、京の商いは商人宿「近与」を拠点に商いをしていた。「近与」は三…

第95回 八咫烏(やたがらす)の聖地 〜紀州熊野古道をゆく〜

ブラジルのサッカーWカップが開幕した。空で3本足のカラスが舞っている。日本代表の胸のマークは守護神・八咫烏だ。長さの単位で八咫は大きい意味にな る。この旅もニッポンの活躍を祈願して、サッカーゆかりの神社参拝から始めた。八咫烏(やたからす)の…

第94回 聚楽第跡で生まれた大物 

* * 粟津征二郎氏の最新作が「学研」より発売されます。 「慈悲の人」 蛍山禅師を歩く 道元の禅風を受け嗣ぎつつ、曹洞宗の民衆化路線を指揮した蛍山禅師とはどのような人だったのか? (粟津氏談) 蛍山は道元の下で隠れた存在ですが、優れた思想家であり…

第93回 新緑の京の山歩き町歩き 〜大文字山紀行〜

粟津征二郎氏の最新作が「学研」より発売されます。 「慈悲の人」 蛍山禅師を歩く 道元の禅風を受け嗣ぎつつ、曹洞宗の民衆化路線を指揮した蛍山禅師とはどのような人だったのか? (粟津氏談) 蛍山は道元の下で隠れた存在ですが、優れた思想家であり又マネ…

第92回 日本一長いローカルな飯田線でゆく伊那の高遠桜まつり

年金と健康保険の2本差しの旅の特徴は、時間がたっぷりあることだ。何時までにつかねばならない。誰かが待っているなど、恋のときめきからは縁遠い旅。猫 とたわむれる日々でふと、青春キップを使った各駅停車が思い浮かんだ。花見ができて、道中がゆっくり…

第91回 雛に託す女の願い、厄払い

〜全国各地で観光行事になった「流し雛」〜 3月の風がいすわる寒波を追い払いつつある。寒さも峠を越したようだ。すでに雛祭り開幕の地域もある。雛飾りの種類も檀雛から吊るし雛、さげもんなど地域によって異なるが、観光客に人気があるのが流し雛。人形を…

第90回 W・M・ヴォーリズを歩く

〜海を越え、青春が結んだ西洋建築と心〜 今年は明治、大正、昭和の日本に西洋建築の粋を築いたウイリアム・ヴォーリズの没後50年である。青い目の近江商人の別名があるがごとくヴォーリズは滋賀 県近江八幡市を拠点に数多くの建築を残した。またメンソレ…

第89回 ふるさととは 北陸の地に犀星と高見順の生地を訪ねて

旧年になるが、能 登の帰りに金沢を歩いた。晩秋を飛び越し、すでに冬であった。北陸の気候ではさして珍しくもない。兼六園の雪吊りの唐崎松が枝を震わして雪を待っている。 湿った雪は金沢といわず北陸の特徴である。雪吊りは重い雪から木を守る金沢の智恵…