第88回 天空の城 兵庫但馬・竹田城址

〜日本のマチュピチユを歩く〜 関西でいま話題の観光地は、京都でも奈良でもない。兵庫県朝来(あさご)市にそびえる古城山竹田城址である。夜の明ける前から観光客が訪れ、ついに入場制限までするブームになった。 春、夏の風景も雄大であるが、晩秋から初…

第87回 路線バスで行く能登は初冬の気配

〜名物のぶりおこしの雷と丼の食べ比べ〜 能登の禅宗寺に行 く用があり、金沢から奥能登を旅した。5年ぶりの能登。前回は羽咋の気多神社と民俗学者、折口信夫の足跡をたどった。師走の旅だったので心づもりも装備も 充分だったから、空模様の変化にはあわて…

第86回 秋は斑鳩の里 古寺巡礼

〜鐘と柿のなるなり法隆寺と中宮寺を訪ねて〜 秋は京都よりも奈良だ。人の波をかきわける賑わいに変わりはないが、奈良の風情は歩いていると、寂としながらほのぼのとした心のやすらぎがふくらみ、ぱち んと消えてはまたふくらむ。映画にするなら、遠く離れ…

第85回 西行、歌の旅 鴫立つ沢の秋をゆく

小田原から鎌倉にかけての海岸は、相模湾の砂浜が続く。JR大磯駅から南西の国道1号線(旧東海道)に「鴫立沢」の名の交差点がある。地名ではなく、このあたりが西行の詠んだ歌ゆかりの地である伝承から、国土省が付けたようだ。 平安末期の 1127年(…

第84回  ♪夏がきたら思い出す 幻のツチノコを追って

〜日本未確認動物はどこにいるのか〜 ツチノコの話は、いつもながら京都が発端である。昭和34年、一人の渓流釣りの男が北山の夜泣峠を歩いていた。突然、前を黒いものが飛んだ。蛇に似ているが、形は頭が大きく、初めてみる異様な姿に立ちすくんだ。 私 が…

第83回 セピア色の風景が問いかける現代日本

〜小説「官僚たちの夏」と石炭の町〜 アベノミックス、アベコベミックスなど安部政権の信を問うた参院選は、マスコミの予想通りの結果に終わった。野党に「経済成長」の是非を問う論争を期待する方が無理だった。 今 回のセピア色の風景は、高度成長の入り口…

第82回 夏の風物詩、長良川鵜飼

〜篝火に浮かぶ国盗り道三、天下布武の信長の戦国絵巻〜 鮎の季節である。琵 琶湖岸に住みながら、鮎釣りの経験はない。しいていうなら、5月頃、湖岸で稚鮎のひっかけ釣りは、何度か楽しんだ。友釣りは、勧められることはあったが、 実行にはいたっていない…

第81回 ♪♪嵐電に乗って京都キネマ行進曲

〜 弥勒と大魔神の太秦・大映通り〜 古い町名の多い京都で戦後生まれの町ながらなつかしい名前の町がある。 『大映通り』。日本映画のふるさとの道である。大映通りのある太秦には四条大宮から嵐電に揺られて、ゴトン、ゴトンの奏でる行進曲をバックに訪ねる…

第80回 京の先端風俗はいま− 先斗町(床)そぞろ歩き

夜、京をそぞろ歩く舞台を2つ上げなさい。仮に京都検定の問題に出たとするなら、即座に書ける場所がある。石塀小路と先斗町。共通するのは石畳。石塀小路はあやしげな下心がある時、誘うにふさわしい。京の夜の情緒を味わうのであれば、祇園よりも先斗町だ…

第79回 若葉の薫る5月 京のまちは王朝絵巻の葵祭

花吹雪が舞う京都の東山は5月を前に麓から薄緑に衣替えする。山頂へ向けて萌黄が駆け上る頃、京は祭の季節だ。葵祭。清少納言は枕草子「4月、祭の頃」の項で若葉の都を綴っている。 『祭 の頃はいみじうをかし(ことのほか趣きがある)。木々の木(こ)の…

第78回 秀吉は醍醐花見で何をみたか

〜重文屏風に描かれた豪華絢爛の絵巻〜 関 西の桜は九州、関東に比べて開花が遅く、ようやく見ごろを迎え、満開は7日前後になるだろう。歴史に残る最大の花見イベントは太閤秀吉の醍醐花見をおいて ない。千葉・佐倉にある国立歴史民俗博物館所蔵の「醍醐花…

第77回  さらば小太郎(猫) 「我輩は永遠の旅に出た」

==10数年共に過ごした愛猫「小太郎」への鎮魂歌== 旅立つ3時間前の小太郎 我 輩は10年余、世話になった旦那とママの家をあとにして雲の上、旅の途中である。黄泉の国を目指している。西方浄土の国だ。体調がおかしい、と、気づいた のは、昨年の秋頃で…

第76回  武士道にみる心とは −謙譲の美徳を訪ねて その3−

平 安朝において桓武死後、公卿たちはあわてた。桓武の存在が大きすぎて、皇太子時代の平城天皇とは距離を置いてきたからだ。桓武の寵臣だった参議〈公卿〉・ 藤原緒嗣もそのひとりである。緒嗣は、桓武に可愛がられ、異例の速さで昇進を重ねた。父、藤原百…

第75回 奈良・女帝と公家たち  「謙譲の美徳」を訪ねて その2 

「謙譲の美徳」は孔子を始祖とする儒教に端を発している。飯能の帰りに、東京・湯島聖堂へ立ち寄った。JRお茶ノ水駅聖口から橋をわたり、右手の森の中に聖堂がある。徳川5代将軍、綱吉建立の孔子廟である。幕府の昌平坂学問所もあった。昌平坂は孔子の生…

第74回 新春を歩く心の旅  「謙譲の美徳」を訪ねて  

「謙譲の美徳」の名で知ら れる岩場を尋ねるため、秋晴れの10月末、西武池袋から飯能行電車に乗った。ひさしぶりの東京。行く先は秩父連山の岩場である。「謙譲の美徳」と目的地で ある秩父の岩場の関係は電車の進行にあわせて説明していくが、学生時代、…

第74回 新春を歩く心の旅 

第73回 日本銘茶紀行  味と歴史の風景をたずねる

茶畑の景色でどこがいいか、と尋ねられ、思いつくまま、日本平の茶畑と富士山が一番、と答えたことがある。日本平は、ご存知、「旅姿三人男」の歌に出てくる 清水市北の高原地帯を指し、「お茶の香りと男伊達」の土地柄だ。清水エスパルスのグランドのある競…

第72回  茶の湯の源流をゆく その3 

利休後の茶の湯 一期一会 利休によって完成した茶の 湯の後継は、利休七哲(弟子)の一人古田織部が担った。古田織部は美濃・下巣の城主の子どもに生まれ、17歳で信長に仕え、武将の道を歩く。利休が秀吉か ら堺に蟄居を命じられ、京を去る利休を見送った…

第71回 お茶の旅 喫茶、茶の湯の源流をゆく その2 

侘びさびのこころ 平城京の東にあるのは大仏殿の東大寺、西はいうまでもなく西大寺である。 近鉄駅奈良線の大和西大寺駅の 南口を降りて300㍍歩くと、真言律宗西大寺東門に着く。天平年間に女帝、称徳天皇の発願で創建され、寺域は約31万平方㍍におよん…

第70回 お茶の旅 その1  日本の喫茶、茶の湯の源流をゆく

朝晩、やっと、しのぎやすくなった。夏の間、おっくうで、だるい、寝不足の体に幾分、生気が戻り、朝の茶の一服がすみずみまでいきわたり、心のゆとりさえ運んでくる。 おきまりの猫の食事、トイレの掃除、散歩をすませたあとの茶は格別だ。これにはタバコも…

第69回 猛残暑に京氷室の里をゆく  夏を過ごす先人の知恵にどっぷり浸る

京の夏は大文字で終わる。ところが京の残暑は厳しく、気温が全国1を記録するのは8月末だ。大文字の16日、夜の点火までの時間つぶしに「船」形の裏にある氷室へ足を伸ばした。氷室は北区の奥にある山里である。鷹ケ峰から5キロの道。光悦寺を過ぎ、車の…

第68回 高瀬川  京情緒をたたえ NOWな流れ

京の梅雨の散策 には高瀬川、と決めている。二条から七条までの高瀬川は橋ごとに風景を変えていく。維新の舞台からオープンカフェ、簾だれ越しの料理屋。柳と桜並木が流れ を包み、京情緒をたたえている。人気の外国人の素泊まり宿もこの川沿いだ。高瀬舟の…

第67回 我輩は猫でない、猫である ②

ベ テイの脱走趣味は、止む気配はない。重いガラス窓を両手をつかい、挑戦している。ロックがかかっていても、あきらめない。たまにロック忘れがあれば、ガラ ス戸を開け、我輩らも脱走のおこぼれにあずかるが、遠出はしない。庭の周りをうろつき、頃合を見…

第67回 我輩は猫でない、猫である①

(GW明けは旅疲れもある。普段からGWの日々であるが、そこに巷の大型連休がかぶさり、ぐったりしている。今回と次回は旅を離れ、我が家の猫に登場を願った) 我輩はこのインド哲学的命題を生まれてこのかた背負い、追究して久しい。この家に来てから、1…

第66回 平清盛の夢世界 厳島神社の高舞台

NHK の大河ドラマの平清盛は、源平の戦いの前哨戦の段階であるが、平安期のドラマの難点である時代考証と舞台づくりで苦労している。大河ドラマの江戸、幕末は 概ね好評を得ている。私は脚本もさることながら、舞台づくりが作品のできばえを左右すると思…

第65回 鎌倉歴史の旅 暗闘といぶし銀の輝き 津波に耐えた長谷大仏

逗子開成のボート遭難に続いて、今回は鎌倉の歴史の旅をしたい。前回も書いたが、私は学生時代、航空部に所属しグライダーに乗っていた。最初の飛行が藤沢飛 行場から江ノ島、鎌倉を眼下に、西に富士山をのぞむ周回コースだった。藤沢飛行場はいまはないが、…

第64回 歌の旅   ♪♪「真白き富士の根(嶺)」と「琵琶湖哀歌」♪♪

今回は歌の旅である。私のスポーツ歴は、高校でボートを漕ぎ、大学でグライダーに明け暮れ、合宿所のある利根川畔と練馬の下宿、大学の池袋を行き来した。 京都の地元紙に就職して琵琶湖から流れる瀬田川沿いに住むようになり、再び、オールを手にしている。…

第63回 新春 心の旅 〜出雲の国にさすらいの神を訪ねる〜

サスライという言葉から連想するのは、知らない国を行方定めず歩く。これが私の若い頃からのイメージである。しかし、現実には、旅はしてもさすらいとはかけ離れた目的地のある旅だった。そのためか、さすらいと聞くたびに心の底に沈んでいる青白き塊が反応…

第62回 京都焼き物の町、五条坂

〜炎は消えても、されど登り窯〜 牛若丸と弁慶の歌に出てくる五条大橋を渡ると、道幅は8車線になる。京都では最大の道幅の通りが広がる。鴨川の東はなだらかな坂道が続き、五条坂の名がある。ここから清水寺につながる清水道までを五条坂と呼んでいる。京焼…

第61回 備中・吹屋のふるさと村をゆく

〜日本最古の現役木造小学校で時の流れをとめた〜 小学校の同窓会の通知が届いた。卒業して何年になるか。55年か56年か、どちらかだろう。幹事も歳月を数えることに疲れたのかも知れない。年を取るにつれて同窓会の集まりがよくなった。翌年には、出席者…