*** お知らせ ***

「粟津征二郎の紀行エッセイ」は、筆者の体調回復がおくれているために、残念ながら、本年1月に執筆した第143回を最終回とさせていただくことになりました。 長くご愛読いただきましてありがとうございます。

第143回  鈴鹿越えの伊勢参りはここ「関」の宿から

〜東海道で唯一、残った宿場町並み〜 関西から伊勢に行くには鈴鹿越えの旧東海道を行くか、大和から伊賀越えの道を歩くのが江戸時代の参拝ルートになっていた。伊賀越えは本能寺変のさい光秀の襲 撃を予想して伏見にいた徳川家康が東海道を避けて、命からが…

第142回 私は美貌猫のベテイちゃん でもいまはおむつの日々

* * ベテイです。16歳。人間でいえば90歳に近い。京都生まれの京美猫。大津のパパとママの家には生まれて20日余できました。亡き先輩小太郎さんが1歳でした。コタさんには可愛がられ、なめたり、ほぐしたり、いい線をいっていたのですが、縁なく終わり…

第141回 鯛のうまいのは秋だ、今だ

〜もみじ鯛を求めて明石浦を歩く〜 鯛の旬は春というのが相場である。ところが漁師や業者に聞くと、秋、もみじのころの鯛が一番うまいと、笑われた。大津から新快速で1時間半の明石。神戸から 二駅ながら、遠くに感じるが、電車の旅には格好の距離である。…

第140回 色づく京の10月は隠れ里水尾

〜本能寺変の謎解く鍵はここにあり〜 京都には市内中心部から車で1時間の距離の隠れ里が西、南、北に散在している。北はいうまでもなく北山奥の花脊、広河原、久多。手前に鞍馬、貴船、八瀬、大原。ところが西の愛宕山麓も魅力的な隠れ里がある。水尾。京都…

第139回 猫小太郎がゆく文豪の「吾輩の猫の実家」

〜スロー、スロー、クイックの猫歩き〜 猫であった吾輩小太郎が黄泉の国に旅たって4年半になる。黄泉の世界は国境もなく自由である。自由であるがゆえに、かつての縛られた生活を懐かしく思うこ ともある。今年の盆に琵琶湖畔大津の実家に戻り、ベテイ、ボ…

第138回  琵琶湖周航の歌100周年 波をまくらにルーツを訪ねる旅

夏は琵琶湖。役所は移動の季節だ。おじさんたちが転勤のたびに歌うのが〽志賀の都よいざさらばーの琵琶湖周航の歌だ。私も2回の大津勤務でこの歌に送られ、しみじみとした気分に浸った思い出がある。 若者よりもおじさん、おばさん好みの歌ながら、昨今は役…

第137回 祇園祭 雷鳴とどろかせてコンチキチン

しめしめ、梅雨明けも近い。京の町を歩いてみたくなった。京の町の変貌はすさまじい。といってもひと頃のようにビルが乱立しているわけでない。中京あたりの 町屋が飲食店やみやげもの店に模様変えしている。かつてウナギの寝床の路地の家がそろってお洒落な…

第136回  稀有なJR鉄道の飛び地、城端線をゆく

〜合掌集落の生活を支えた絹織物の門前町〜 冬、雪に閉ざされた白川郷はじめ五箇山の合掌集落が江戸、明治、大正と生き延びた理由は合掌集落を歩いた だけでは理解できない。白川郷を歩いてまず感じた。大家族が冬を過ごしてくらすには、食料など生活物資の…

第135回 世界遺産 白川郷合掌集落を歩く

〜エキゾチックでクラシックな茅葺の里〜 白川郷は外人観光客の人気スポットである。爆買い観光でなく合掌造り観光は日本文化を訪ねる心の旅といえる。外人観光客からすればエキゾチックジャパンにほかならないが、この合掌造りの里を世界に紹介したのはドイ…

第134回 王政復古150年続編は木曽馬籠宿から

〜島崎藤村が描いた「夜明け前」をゆく〜 王政復古150年の今年、島崎藤村の大作「夜明け前」が読まれているそうだ。上下4巻もある小説は、はなから敬遠して全巻を読み通したことはなかった。最初の「木曽路は山の中」から馬籠の紹介まで「序章」に目を通…

第133回 維新前夜の幕府本陣、京都黒谷さんは京の隠れ散策路

〜会津の運命を変えた松平容保の京都守護職就任〜 大政奉還から150年の春、久しぶりに黒谷界隈を歩いた。桜にはまだ早いが、室町時代から花の名所に数えられた地である。京都の人はくろだにさんと、親しみを込めて呼 んでいる。かつては観光客の姿をみか…

第132回  作家藤沢周平の舞台を歩く

〜教え子から学んだ人間と故郷の絆〜 藤沢周平 私の住む大津市は 琵琶湖の南に位置し、湖北は北陸並みの大雪に埋もれて、南も一日雪模様の日が続いている。大津市内でも北部はアイスバーンで車の通行に難儀する冬である。 正月以来、こたつ番の読書三昧の生…

第131回  大政奉還から150年

〜幕末の暗闘を経て徳川崩壊〜 徳川幕府が天皇から委嘱されていた政治権力を天皇に返す大政奉還から今年は150年を迎える。徳川300年の終焉の年である。慶応3年10月14日 (1867)、京都二条城黒書院で将軍徳川慶喜が諸大名を前に政権返上を表…

2016-12-09 第130回 日米開戦から75年の京都哲学の道

〜日本はどこへ行くのか、晩秋深まる〜 名残りの紅葉になった京都「哲学の道」を歩いている。この道が通称から正式名になったのは私が京都新聞社に入社して間もない社会部時代のいわゆる「町廻り」のころであ る。サツ廻りが事件取材なら町廻りは町ダネを拾…

第130回 日米開戦から75年の京都哲学の道

〜日本はどこへ行くのか、晩秋深まる〜 名残りの紅葉になった京都「哲学の道」を歩いている。この道が通称から正式名になったのは私が京都新聞社に入社して間もない社会部時代のいわゆる「町廻り」のころであ る。サツ廻りが事件取材なら町廻りは町ダネを拾…

第129回 秋の近江京と大和を結ぶ天平の恋

〜白鳳時代の弥勒菩薩を訪ねて〜 私の住む大津市は 細長い。うなぎの寝床にたとえられ、古代から現代まで時代ごとに町がつくられ、琵琶湖に沿ってひらがねの「し」の字の大津ができた。琵琶湖の水運が栄えた 明治までは船が北は堅田から瀬田川沿いの石山寺周…

第128回 そうだ四国高峰・剣山へ行こう

〜帰路は祖谷の平家の里〜 この頃、早く床に つくせいか、午前3時から4時までの間に目がさめる。困った癖がついた。眠気がくるまでラジオのNHK深夜便をイヤーホーンで聞きながら、夜を明けるのを 待つのは楽しい。6時頃には再び夢の中。朝の夢は鮮明で…

第127回 江戸町歩きが面白い

〜大岡越前、遠山金さんの舞台をゆく〜 TVで東京の町歩きをとりあげている。歴史とホットな動きをかみ合わせた東京紹介は面白い。大阪の民放も同じような番組をしているが、ふところの深さと町の変 化が比較にならない。大阪都構想よりも大阪駅前から阿倍…

第126回 さながらファッションショー 夏は華麗な盆踊り

〜郡上、西馬音内、山鹿、八尾をたずねて〜 日本の夏は盆踊りとともに過ぎてゆく。日本三大盆踊りは秋田の西馬音内(にしもない)、岐阜・郡上八幡、徳島・阿波が有名だ。8月15日前後が踊りの最 高潮になるが、郡上八幡は7月中旬から33夜の間、町内ご…

第125回 日本海夏物語

〜鳥取 いい味は岩ガキと青谷和紙〜 日本海をのぞむ露店風呂でこの日、鳥取のいい味を思い浮かべていい気分に浸っていた。夏の鳥取の味覚は数あるが、青い海にごつごつした岩場から連想するのは 岩ガキだ。殻を割って食べるあのふくよかな、とろりした味は口…

第124回 御食っ国(みつけくに)伊勢志摩

〜神饌・熨斗鰒(のしあわび)の国崎をゆく〜 サミットが終わ り、伊勢志摩から通行止めの表示はほぼなくなった。サミットでトバされ、TVに出る機会の少なかった鳥羽まで京都から特急2時間15分。鳥羽は伊勢湾の入 口に位置し東に渥美半島が思い切り手を…

第123回 フアン待望の京都鉄道博物館GWオープン

〜旅路はるか梅小路に鉄路の精鋭が勢ぞろい〜 このGWは美術フ アンには東京上野の「若冲展」、鉄フアンならこちら京都鉄道博物館が人気を呼んだ。旧梅小路機関区は京都駅西の山陰線高架西にあり、住所地は歓喜寺町に なっている。梅小路の町名は平安京条坊…

第122回 新月の夜、富山湾は蛍光に輝く

〜住みよい県NO1のホタルイカを求めて〜 − 金沢から富山の東に立山連峰がそびえる。霊峰の名にふさわしい信仰の山だ。春から新緑の頃、富山はホタルイカの季節である。琵琶湖から車で3時間の道。旅の足は鉄道と決めているが、今回は真夜中の海岸沿いをさ…

第121回 近江商人が開拓した北の小樽港と小林多喜二

=一杯のコーヒーが若者をとりこにしたランプの町= 小樽が観光地として注目されだした頃、季節は3月。町の通りの隅に雪が残っていた。80年代の後半、北海道観光が注目され、中でも小樽が学生の人気を集めていた。東京からの学生がまず立ち寄るのが北一3…

第121回 近江商人が開拓した北の小樽港と小林多喜二

=一杯のコーヒーが若者をとりこにしたランプの町= 小樽が観光地として注目されだした頃、季節は3月。町の通りの隅に雪が残っていた。80年代の後半、北海道観光が注目され、中でも小樽が学生の人気を集めていた。東京からの学生がまず立ち寄るのが北一3…

第120回 吾輩は猫でない、猫である 

〜「CATSはどこからきたのか」没後3年小太郎が雲でゆく〜 ありし日の小太郎 在りし日の小太郎 吾輩が実家を後に して黄泉の国へ旅たち早や3年になる。空から見る家に変わりはない。ベテイ、ボンの姉、弟の2匹は天気がいいと、庭で遊んでいる。ベテイ…

第119回 江戸の奇想の画家・若冲を歩く

〜日本画の因習を破ったユルキャラの元祖〜 10年前、2006年のことである。東京国立博物館は長蛇の列が続いた。「若冲と江戸絵画展」の入場者は主催者も驚く1日6500人に達した。英国の美術専門誌は一日の入場者として世界NO1 の展覧会と紹介した…

第118回 奈良・秋篠寺をゆく

〜謎めいた日本唯一の伎芸天女像〜 秋篠寺は平城宮跡、都の西北にある。近鉄奈良線の西大寺駅から歩いて10分ほどで着く。バスもあるが、乗ってすぐに降りるため、慌ただしく、ここは晩秋の道を歩くに限る。女性にはだんとつの人気で、道筋で出会う人の列も…

第117回 ローカルでローカルな近江鉄道

〜タイムスリップでゆく沿線風景〜 近頃は昔話が楽し くなった。後ろ向きなどという偏屈もいるが、古希を過ぎて前途が開けているわけでなく、振り返れば君がいたあの昔である。近江のコメどころ、湖東平野は天 智天皇の時代から織田信長まで日本史の枢要なペ…