第31回 桜が咲くと筍の季節 〜京のタケノコは色が白くてやわらかい〜

  福岡が全国トップで桜の開花の知らせには、いささか驚いた。確かに今年は早い。桜とともに、土中からタケノコがもっこり顔を出す。ブランド、日本一が好きな京都はタケノコもしかりである。タケノコが産地によってどんな違いがあるのか。竹薮があればタケノコは育つから、日本一には疑問の向きも多いと思うが、京都の店頭に並ぶタケノコを仔細に検証すると、特徴がある。色白なのだ。寺町三条上ルの専門店?で訳を聞く。この店は春ならタケノコ、秋はマツタケが並ぶが、「朝掘り、地取り、日本一」が売りである。「色が白くて、やわらかく、うまいのが京都産」という。顔で冷やかしとわかるだけに店の応対もそっけない。例の見(身)くさって(腐って)、買(貝)くさらん(夏の蛤)客だからである。京都産には「白子」の別名がつく。これに対して一般のタケノコは黒子と呼んで区別する。白子はえぐみがなく、あく抜きしないで生のまま刺身にもなる。籠の2本がなんと5000円はする。超高級品は1万円の値がついている。

     

  白子の産地は西山だ。関西の人なら洛西ニュータウンの近くといえば、だいたいの検討がつくが、観光客にはなじみの薄い地域である。中心部からバスで40分はみなくてはいけない。嵐山の南西に位置し、30年前まではうっそうとした竹林に囲まれていた。ニュータウンができて、竹林は激減したが、タケノコ産地の面目は保っている。

  バスの最前列に座り、停車ごとに町の名前を確かめているうちに、竹林が見えてくると終点だ。この辺りの竹林は、竹薮のイメージがまったくない。手入れの行き届いた竹の庭である。あるいは竹の畑とでもいったほうがいいだろう。
  
  農家に頼んでタケノコ畑を歩く。ふかふか、実にふくよかである。夏の間は笹の下草を刈り、秋から冬にかけては一面にわらを敷き詰め、土を入れ替える。竹は親竹を残して切るから、広々としている。冬肥えをやり、春を待つ。敷き藁が厳冬期の地下茎を保護し、2月になれば早くも若芽をつけ、成長するが、芽が地表にでるまでに掘り起こすのが白子だ。千葉、信州など他産地のタケノコと色合いの違いは一目瞭然。京の色白は土の質と関係が深い。粘土質が最高である。タケノコについている土が品質を見分けるポイントになるから、きれいに洗ってあるタケノコに「京都産」の表示がついていても、一応、疑うのが無難である。

  タケノコは朝掘り、それも早朝に限る。まるでオオアリクイが地中のえさを探しているかのような道具で掘り起こしていく。他産地のタケノコは地表に顔を出したものを露天掘りでとるが、色白でなく、えぐみが強い。京都ブランド品のタケノコは、土盛りのわずかな割れ目を見つけ、地下のタケノコを掘り当てる。色白、えぐみのない、やわらかさは、進物品として珍重された。


      京都産たけのこ

  京の竹の歴史は古い。枕草子に出てくる平安期から西山は竹の名所で知られるが、当時は真竹と呼ばれる苦竹、淡竹(はちく)、長間竹(しつたけ)を食した。特に淡竹は美味として好まれ、関東に少なく、京に多いと、文献にはある。太い、肉の厚い孟宗竹は、中国原産で、道元が持ち帰ったというが、京に根付くのは江戸時代になってからだ。孟宗竹は日当たりのいい、丘陵地で酸性土壌を好み、西山はその成育条件にぴったりあてはまる。西山で増殖され、タケノコの主流になった。なかでも塚原地区のタケノコが最高級品の評価が高い。すりおろしのわさびにつけて食べる生の白子は、雅な味がする。ただ、かたくて、えぐみのあるタケノコ炊き合わせの味わいも捨てがたい。食は人それぞれ、地域いろいろ、食べる人の好みで評価は異なるから、値段が高いからといって味わいも最高級というつもりはもうとうない。

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